「半沢直樹とはまた違った面白さ。クソ面白いです」池井戸潤原作『七つの会議』【映画レビュー(ネタバレなし)】

 

半沢直樹が終わり、毎週の楽しみがなくなってからしばらく経ちましたが、もう一度あの興奮を味わいたいと思い、そう言えば「七つの会議」が池井戸潤原作、福澤克雄監督の半沢直樹コンビの映画だったなと思い、観始めました。

いやっ、本当に観て正解でした。半沢直樹とはまた違ったテーマではありますが、やはり間違いなかったです。あっという間の2時間でした。

あらすじ

都内の中堅メーカー、東京建電の営業一課で係長を務めている八角民夫(野村萬斎)。落としたペンの音にも過敏に反応し、皆が振り返るほどの緊張感に包まれた営業会議の中でも、彼は意に介さず居眠りばかり。周囲からは「居眠りハッカク」と呼ばれ揶揄されていました。彼は、営業部長・北川誠(香川照之)による厳格な結果主義のもとで部員たちが疲弊する中でも最低限のノルマしかこなさず、トップセールスマンの課長・坂戸宣彦(片岡愛之助)から責められますが、意に介することなく気ままに過ごしていました。
しかしある日、突如として八角がパワハラで坂戸を訴えます。エースである坂戸が飛ばされるはずはなく、営業部長の北川が坂戸をかばうことで穏便におさまるだろうと誰もが思っていた中、まさかの坂戸に異動処分が下されます。そして原島万二(及川光博)が新課長に着任。物語は八角に振り回されるように思わぬ方向へと進んでいきます。

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最初っから最後まで、怒涛の展開でクソ面白い。

池井戸潤原作作品の一つの特徴かと思いますが、この「七つの会議」も開始10分足らずでもう事件が起き、そこで生まれた物語のベクトルを元に、最後まで怒涛の展開を見せていきます。

物語の前半、八角がいったい何をやっているのか、その秘密を探る形で物語は進んでいきます。
2流の物語だったらその秘密こそが物語の肝であり、その秘密がわかってしまうと全く面白くなくなってしまうのですが、
正直、物語の初めの方でなんとなくその秘密はわかります。少なくとも僕はわかりました。

でも、そんなことは大して重要ではないんです。たとえその秘密が分かっても断然面白い。そして、物語にとって重要なのはその秘密を元に人々がどう動くのか、そこが物語の本当の肝であり、面白さでもあります。そしてそれがまー見事です。クソ面白い。

また、そこに絡んでくるテーマ。そして“正義”。

半沢直樹の舞台は銀行でしたが、「七つの会議」の舞台は中堅メーカーです。銀行という、あまり知らない世界とちがい、より身近で、親近感もある世界での物語になります。

社会の一員として、大きくも小さくも、全く同様の事例でなくても似たような形で、もしかしたら自分もそこに関わることがあるかもしれない出来事の中で葛藤する登場人物たち。その物語を観ているとき、もしくは観終わった後、色々と考えてしまったのは、僕だけではないはずです。

人間関係と思惑が入り乱れてクソ面白い。

最初っから最後まで怒涛の展開でありながら、所々で語り手が入れ替わりながらして物語が展開して行きます。ですので、それぞれのキャラクターの心情描写や思惑がしっかりと描き出されていて、置いていかれることなくすんなりと物語にのめり込んでいくことができます。

半沢直樹にもありました、出世のために他の人間を蹴落としていく人間関係の描写。組織の横の対立が強くて、他の部署の足を引っ張ろうと躍起になる人間関係と、徒党を組んで他を嘲笑うあの感じ。

決して気持ちのいいものではありませんが、それらが入り乱れていてその人間関係もまた面白いです。

そしてだからこそ、その狭い内向きな会社組織とは一線を画した主人公や、その他の善意あるキャラクターが、なんとも魅力的に写ります。

主人公の八角さんもいいけど、気が弱くて人のいい原島さんもよい。

緊張感バリバリで息苦しい会議と、出世欲ばかりで他を蹴落としてばかりの人間の中で、出世とは無縁のグータラ社員である主人公八角は、それだけで既にキャラとして起っていますし、だからこその人間として当たり前とも言える“正義”は、観ていてとても清々しく感じます。

そしてそれだけでなく、追い詰められたりすると緊張のあまり吐いてしまう、気が弱くて人のいい原島さんも、観ていて安心します。特に、原島さんと一緒に八角さんの秘密を探る女性社員の浜本さんといる時に、小さな気遣いや人の良さ。部下への思いのようなものが滲み出ていてとても良いです。こんな上司の元で、安心して業務を行いたいとも思いました。

また、この浜本さん役を演じた朝倉あきさん。良いです。綺麗ですし演技も上手ですし。あまり知らなかったのですが色々な作品に出演されていたようで、瞳に力があるからでしょうか、地味な中にも感情や信念を感じさせる演技をされていて、とてもよかったです。綺麗ですし。

あと、なんだかんだで香川照之さん演じる営業部長の北川さんもいいんですよね。北川さんと八角さんの二人の対象構造。なんだかんだで信念のようなものもあり、なんだかんだで好きです。もっと言うとエースで課長の坂戸さんもよかった。真摯な感じとか、一生懸命で純粋と言うかなんと言うか。

演技面ではオリラジの藤森さんもよかったです。嫌な奴の役が見た目を含め滲み出ていました。

と、振り返ってみて、好きなキャラクターや印象に残るキャラクターがこんなにも出てくる。素晴らしいですよね。

組織の描写はある意味ファンタジー。

組織の設定、会社の設定は、やはり少し古いかなと思う部分があります。会議の緊張感や、縦割り構造で横の協力体制のなさなど。残業してまでノルマを達成しようと頑張ることが正しいというような風土なども然りです。もちろんそれはグータラ社員の八角さんとの対立構造を作るためでもありますが。

そもそも昔を知らないので、その設定が古いのかなんなのかは正直わかりませんが、今の時代こんな会社あるのかな?と、観ていて思ってしまうのも事実です。しかし、それらのことはある意味ファンタジーとして、一つの世界観として楽しむのが手かなと思います。気になってしまう人はいるかと思いますが。

ただ、ふと振り返って考えてみると、だいぶ盛ってはいますが、これに近いものは、いまだにどこにでもあるのではないかなとも思います。攻撃的な人は会社に限らず、隣人や家族、学校、時には友人関係の中になど、どこにでもいますし。組織や属しているコミュニティに慣れると、そこの風習や雰囲気が当たり前になります。そんな中で、その集団とは異なる行動や考え方を示すことは、とても骨の折れることです。それが企業であれば、もしかしたら職を失うかもしれない中で、間違っていることを間違っていると、正しい行動をとり、誇り高い人間でいられる人は少ないと思います。

社会の中に生きる一人の大人として、この先自分が八角さんのような行動を取れるのか。映画を観て以来、ふと考えてしまいます。

やはり風通しの良さが重要なのではないか。

ここからは映画の面白さについての感想というよりは、映画を観て感じたことをそのままつらつらと書いていきたいと思います。

池井戸潤原作作品が企業で生きる人を扱っているからこそですが、しばしばテーマとして出てくるのが“組織”についてです。

今では終身雇用なんてものは露と消えていますが、かつてはそれが当たり前だったと聞きます。考えてみるとすごいですよね。就職してからその会社で一生を終えるということは、最低でも40年間はその会社で生きていくってことです。40年…40年…。そりゃ腐敗も生まれるし保守的にもなってきます。

その終身雇用がなくなって、企業と社会に流動性が生まれてから、そういった内向きな風土は少しマシになったと思いますが、会社のトップはまだそういう社会で生きてきた人が大半です。また、政治を動かす人々などもご老人ばかりなのを見れば、なかなか変わるのには時間がかかるのかなーとも思ってしまいます。それは就活の暗黙のルールや、一度外れたらやり直すことの難しく、人生のレールが一本しかない(ように見える)風潮にも現れていると思います。

しかし、この映画の設定が古さと、同時にどこかファンタジーとして見える部分があるのは、社会が言わば変革の過渡期にあり、この映画に共感と反感が同時に存在するからなのではないかと思います。

社会が流動的になり、企業内の循環が活発になれば、自然と組織の風通しも良くなり、組織に依存しない、自立した一個人による健全な組織運営が出来上がって来ると思います。

とまあ、正解かどうかは別として、こんなことを考えさせられてしまう、エンターテイメントの中にも少しのメッセージ性を含んだ、「七つの会議」はなかなかに素晴らしい映画でした。

こちらもオススメ。

同じ池井戸潤原作作品でも、こちらは半沢直樹スタッフではない製作陣による映画ですが、「空飛ぶタイヤ」もオススメです。

 

正直に言えば、この映画は半沢直樹シリーズや「七つの会議」ほどの面白さはありません。しかしこの映画の根底にある“正義”の心は、「七つの会議」の元になっていると思います。なによりもこの「空飛ぶタイヤ」が本当にあった事件を元に描かれていることに、池井戸潤さんの熱意を感じます。「七つの会議」を観た後にでも、ご覧になってみてはいかがでしょうか。

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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