『人生はやり直すことができるのか。』クリント・イーストウッド主演・監督「運び屋」【映画レビュー(最後若干ネタバレあり)】

クリント・イーストウッド監督作品って、やっぱり間違い無いですよね。改めてそう思いました。

最近あまりいい映画を観れていなかったのですが、また、映画が好きになりました。

あらすじ

主人公アール・ストーンは園芸家として人生を捧げてきた。アールの育てる花は品評会でも賞を獲り、評判は高かったが、インターネットに負け、破綻。家は差し押さえられ、その頃には、ないがしろにしてきた家庭にも居場所はなく、孤独に行き場もなく暮らしていた。そんな中偶然持ちかけられる麻薬の運び屋の仕事。ただ運転するだけで手に入る大金。それを元にアールは家族との関係を修復しようとする。

実話を元にした物語。

一人の男の人生の一部分を描くことで浮かび上がってくる『人生の大切なもの』

『泣いた』と一言で言ってしまうと、もうその映画は『泣ける映画』として分類されてしまうのであまり使いたくないのですが、後半、物語が大きく動くところで、なぜか涙が流れました。

失敗してしまった人生を修復しようと、人生が終わりに差し掛かっている男が賢明になる姿に、『人生ってなんなんだろうな…』と、少し自分の過去を振り返って考えてしまったのかもしれません。

この話の主人公アールは、人生において家庭よりも仕事を優先して生きてきました。そして映画はその関係を修復しようと試みる姿が描かれています。なので、単純に『仕事より家族が大事なんです』がテーマなんだと考えがちですが、僕はもう一つテーマを感じてしまうのです。

それは、『人生はやり直すことができるのか』です。

クリント・イーストウッド監督は、インタビューの中でこんなことを言っています。

誰にでも、人生の障害となるものはある。それを乗り越える話が好きなんだ。

1人の人間の人生を、その人の人生の一部分を描くことで表出する。

恐らく、軽く、なんとなくは監督や脚本家の頭の中にテーマのようなものはあったとは思いますが、そこまで強くは考えていないのではないのでしょうか。テーマについて語っておいてなんですが。

誰かと出会い、話すと、自分の中で何かが変わったり、感じるものがあったりします。それと同じで、素晴らしい物語というものは観る人それぞれに、ぞれぞれの感想、テーマを与えます。

クリント・イーストウッド監督が緻密に描いた、1人の人間の人生の一部分。そこから僕は

人生はやり直すことはできないが、修復することはできる。人生の障害となるものをしっかりと見据え、乗り越えようとするならば

というテーマを受け取りました。

というか僕は人生をやり直したいと思っていたのですかね…。

とにかく、素晴らしい映画でした。

『神は細部に宿る』を体現する、巨匠による集大成作品。

全ての巨匠がそうであるかはわかりませんが、間違いなくいい映画を撮る人の作品は、カメラの外にまで監督の意思が、神経が行き届いているのを感じます。

クリント・イーストウッド監督の作品は間違いなくその部類のもので、一見地味に感じる作品でも、登場人物の葛藤や行動、生活が丁寧に描かれているために、濃密で飽きの来ない物語になっています。

「運び屋」に関しても、モデルになったその人の人生自体は『高齢の麻薬の運び屋』ということ、なかなか数奇な人生ですが、話としてはトラックで運ぶだけですから、気を抜くとただ車を運転しているだけの退屈な映画になってしまいそうですが、主人公の感情や人間関係が丁寧に描かれていますので、話に奥行きが出て、しっかりと感情移入できます。

脚本は「グラン・トリノ」のニック・シェンク

脚本は「グラン・トリノ」でもタッグを組んだニック・シェンクさんです。

この方、他にあまり脚本を書いていないようで、なかなかどんな人かわからないのですが、「運び屋」の主人公アールは「グラン・トリノ」とはまた違った老人像と言いますか、「グラン・トリノ」があまり出かけない、他人を寄せ付けない感じの頑固ジジイだったのに対し、「運び屋」はなかなか人付き合いの良い、ジョークもちょくちょく飛ばす頑固ジジイとして描いています。個人的にはこっちジジイの方が好きですね。

この方の脚本はクリント・イーストウッドさんと相性がとてもいいのかもしれません。

クリント・イーストウッドさんはもうすぐ90才ですが、あと1作品、2人のタッグの映画を観たいと思ってしまいまいました。

最後に少しだけネタバレする締め方を…。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

最後に、この映画の最後、主人公アールが言った言葉を紹介したいと思います。

It’s just time , is it all. I could buy anything , but I couldn’t buy time.
(時間なんだ。なんでも買えるのに、時間だけが買えなかった。)

買えない時間をこんな駄文に付き合っていただきありがとうございました。

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