『観終わってからしばらく立てませんでした。』-白石和彌監督作品「凶悪」【レビュー(ネタバレなし)】

まずは予告編をご覧ください。

もうね、怖すぎますよね。予告で既に。

正直僕は『映画史に残る傑作』だと思っています。それくらいにこの映画はすごいです。

あらすじ

ある日届く死刑囚からの告白の手紙。「自分にはまだ誰にも話していない余罪が3件ある」と。そしてそれは「自分が先生と呼ぶ男の指示でやったことだ」と。その証言をもとに取材を進めていく主人公は恐ろしい事件の真相とそれによって明らかになる社会の闇と出会う。

原作は新潮社から発売されている同名の犯罪ドキュメント本です。ですから、実際にあった話なんです。恐ろしい!!

作品の持つ重厚感が凄まじすぎる。

監督が何かのインタビューで「昔の日本映画にあった骨太な作品を作りたかった」と言っていたように、作品の持つ重厚感というか、エネルギーが凄まじいです。

話が話ですので、それなりの衝撃はあるのですが、作品を作る上でそこから逃げずに真っ向からしっかりと向き合っています。

だからこそ「話がすごかった」だけの感想に終わらず、俳優の怪演が話題になったり、作品公開後どれだけの時が流れても、何度も話題に上がる。俳優3人の好演だけでなく脚本の良さ、演出の良さが際立っているからこそ、なし得ていることだと思います。

時が過ぎても日本映画特集や誰かのオススメ映画として何度も取り上げられるであろう、映画史に残る傑作』だと言えます。

時代に左右されない、闇としっかりと向き合う心構え。

監督の「昔の日本映画にあった骨太な作品を作りたかった」という言葉。なぜ昔の映画にはあって今の日本映画にはなくなったのでしょうか。

人材や、ハングリーさ、かけられる制作費などと、理由は色々あると思いますが、その中の一つに『時代』があると思います。

たとえばバブルの浮かれた時代、滅んだ世界を舞台に、人間の愚かさと高潔さを描くことはカウンターであり、時代の匂いを敏感に察知する、そして次の時代を生きる若者たちは熱狂的にそういった作品を指示しました。

それが「風の谷のナウシカ」です。

しかし後に宮崎駿さんは、「崖の上のポニョ」を撮った後のNHKか何かのドキュメンタリーで、

今ねぇ、ファンタジー難しいんですよ。僕は難しいと思う。
あのねぇ、みんなが浮かれてるとか、まだ気がついていない時に終末が近いぞとか言うときはファンタジーになるんですよ。「風の谷のナウシカ」ですよ。笑
みんながもうダメだと思ってる時にね、何を作るかですよ。

みんながもうダメだと思ってる時には、それを忘れさせるような、底抜けのハッピーエンドが求められるのかもしれません。例えば「君の名は」のような。

しかし白石和彌監督は、そこに行かず、ダメだと思っている現実を、目をそらさず、そのまま見せた。

それはとてもエネルギーのいることだと思います。作る側も、観る側も。だからこの映画は『もう一度観よう』とはなかなかならない。疲れるから。

そしてだからこそ、作品から伝わってくるエネルギーが凄まじいんだと思います。

別に底抜けのハッピーエンドを否定しているわけではありません。エンターテイメントはそうあるべきだと思いますし。それが明日を生きる糧になる。みんながもうダメだと思っている時にそれは、それこそが、物語の『力』だと思いますし、僕はそれが大好きで、信じてもいます。

しかし実は、いつの時代にも人を食い物にしようとする悪意は存在していて、いつの時代もそれを暴き出すことは求められていて、だからこそ時代に左右されない、重厚で時代を超える『映画史に残る傑作』となったのではないでしょうか。

今の時代だからこそ特に、この作品を世に出すことの壁は大きかったと思いますし、エネルギーは蓄積されていったのかもしれませんし。

ただ『怖い映画』でくくってはいけない。

怖い映画って世の中にたくさんあると思います。

ただ、この映画は事実を元にして作られてますから、その怖さは社会の闇も映しています。

最後のシーン。僕は観終わってから10分くらい立てなかったです。

色んな感情が頭の中でグルグルしてましたが、その中の一つは「他人事じゃねえ…」でした。

一度は絶対に観ておくべき日本映画だと思います。

 

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『これまでの日本映画とこれからの日本映画の形』白石和彌監督作品「孤狼の血」【レビュー(ネタバレなし)】

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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