スガシカオ「労働なんかしないで光合成だけで生きたい」は『20周年を越えてスガシカオが側に降りてきたアルバム』だった。【アルバムレビュー】

「労働なんかしないで光合成だけで生きたい」

スゴいタイトルですよね。

この言葉を習字で書いて額に入れて玄関に置いておきたいくらい。この言葉だけ大きく書いて渋谷の1番目立つところに掲げておきたいくらい。学校の「清く正しく美しく」を「労働なんかしないで光合成だけで生きたい」に変えたいくらい。

こんなにも時代を、そして特に若者の姿をイメージさせてくれる言葉ってないんじゃないか。

この言葉の、そして歌のスゴいところは、表面だけ見ればニート賛歌にも聞こえてしまいそうですがそうではない。そこもある意味で含んだ社会を、時代を象徴する言葉だからです。

アルバム全体を解説する前に、まずはタイトル曲であり、非常に重要な曲である「労働なんかしないで光合成だけで生きたい」について書いて行きたいと思います。


「労働なんかしないで光合成だけで生きたい」が孕む時代と幸福の形

歌詞は以下の通りです。

ベッドサイド 放置したまま
空き缶がミイラになって増えていく
どうせ不幸を呼ぶ猫くらいしか
こんな部屋になんか好んで来やしないだろう

労働なんかしないで 光合成だけで生きたい
労働なんかしないで 光合成だけで…

ベッドサイド 先週金曜日
突然出て行ったあの子との写真
ハッピーエンドで終わる悪夢ばっかり
リピートしている この部屋に寄生虫のように

恋愛なんかしないで 光合成だけで生きたい
恋も愛もしないで 光合成だけで…

大都会のなかで 割といい子にしてきて
大都会のなかで 破裂寸前だよ
大都会のなかで 天に祈ってても
大渋滞のせいで 天使なんかこない
「あなたは神を信じますか?」 いやまだ見たことがないです

バイト休んでソシャゲやって
ネットでからんで寝て昼起きて
やっぱ電話して向いてないって辞めて
思い返すと 何もない日々でどうしょうもない

労働なんかしないで 光合成だけで生きたい
労働なんかしないで 光合成だけで…

ボーダーラインの中で ずっと従順に生きて
ボーダーラインの中で 爆破秒読みだよ
ボーダーラインの外へ 実はおそるおそる
ボーダーラインの外へ 行ってみたいんだ
「あなたはいま幸せですか?」 いままだスタンプためてます

大都会のなかで あれもこれも捨てて
大都会のなかで 暴走してしまいそう
大都会のなかで 暴走したくても
大渋滞のせいで 今日も動けない
「あなたはなにを望みますか?」 目先のしあわせでいいです

ねぇその幸福って よくわかんない
ねぇその幸福って 思い込みじゃなくて?
例えば人から見たらめちゃくちゃに不幸な奴がいて
でもその幸福って そこにきっとあって
ねぇその幸福って まだよくわかんない
ねぇその幸福って そこにきっとあって
ねぇその幸福って

「労働なんかしないで光合成だけで生きたい」

これがスゴいタイトルだと思うのはこの言葉への共感が激しくあるからです。

労働して、お金を得て、飯食って、生きていかなくちゃいけない。でも食わなくても光合成だけで生きていけたら、労働しなくていいじゃん!

みんな思っている。みんな思っているけどできない(できるはずないか)。そして言えない。

だから大都会の中で、ボーダーラインの中で爆破寸前、秒読みなんです。

でももし、労働しないで生きていけるようになったら、あなたは何をしますか?

この曲は最後、幸福の話になります。

労働の話が幸福で終結する。

労働なんかしないで光合成だけで生きられれば、人間は幸福になるのか。

じゃあ幸福ってなんだ?幸福って、幸せって人それぞれじゃないの?自分自身が成長し続けることが幸福である人もいるし、ただのほほんと生きていければ幸せな人もいる。

恐らくイチロー選手や宮本武蔵に、のほほんと生きる幸せを説得しても無駄でしょう。そもそも僕は幸福になるために生きているわけじゃないと言われてしまうかも。

ねぇその幸福って よくわかんない
ねぇその幸福って 思い込みじゃなくて?
例えば人から見たらめちゃくちゃに不幸な奴がいて
でもその幸福って そこにきっとあって

と言われてしまうかもしれません。

ちなみに個人的には

「あなたはいま幸せですか?」 いままだスタンプためてます

のスタンプの言葉選びがツボです。素晴らしい。車で聴いていて声を出して笑ってしまいました。

同じメロディの箇所に↓があります。

「あなたは神を信じますか?」 いやまだ見たことがないです

何を信じるか、なにが幸福なのかも人それぞれ。

多様性の時代とも呼ばれますが、正解のない、生まれてきた意味もわからない世界で、みんな迷って、ビルの間でふと天を仰いでしまうような社会を、このタイトルと歌詞で、見事に表現していると思います。

 

実はスガシカオさんの歌詞でそういった時代を象徴して見せてくれる歌詞は珍しいと僕は考えています。

アルバム「Parade」の時も日常を生きている人に非日常を届けることで応援しようとしましたが、このアルバムは応援ではなく寄り添っています。寄り添っているから社会を投影し、応援する訳でも叱責するわけでもなく、側にいてくれる。

どうしてそんな風に変わったのか、それはやはり前のアルバムと20周年にあるようです。

前アルバム「THE LAST」と20周年で出し切ってしまったその後…

前アルバム「THE LAST」。「20周年を前に最高傑作と言えるアルバムを作る」という想いのもとに作られたアルバムであり、もうこの後アルバムを出さないつもりで作った。そしてそのあとに行われたスガフェスなどの20周年キャンペーンの中でどうやら出し切ってしまったらしく、次のアルバムのコンセプトが見つからなくなってしまった。

そりゃそうですよね。前のアルバムをラストのつもりで作ったんだから。

そうやって困った状態にあったスガさん。ある日電車に乗っている時にふと思います。

「あそこにいるあの人のイヤホンに自分の音楽が流れるとしたら、それはどんなものだろう」

そう思った時に曲が湯水のごとく溢れ出してきたそうです。(MUSICAのインタビューより)

今まで誰かのために曲を作ったことなどなかったスガさんが今回、誰かのために曲を作った。

自分のいいと思う音楽を作るのではなく、誰かにとっていいと思う音楽を作る。

上質なPOPSを作り始めたことであり、しっかりと音楽を通して社会と向き合い始めたということだとも思います。

…いやっ、ちがうな。今までも社会と向き合ってはいたと思います。もちろん。スガさんだもの。

ただ、社会や、音楽との向き合い方と表現が変わり始めたアルバムなんだと思います。

レビュー

今回のアルバムはやはり外向きな曲が多いです。「Parade」や「FUNKAHORiC」「FUNKASTiC」のような。

しかしアレンジ的にはファンクよりもポップス寄り。
冨田恵一さんや釣俊輔さん、田中義人さん、武部聡志さん、森俊之さん、間宮工さんと、様々なアレンジャーが参加しています。

FUNKASTiC以来のMammy-Dさんとのフィーチャリング曲「ドキュメント2019」もあります。

この曲大好きなんですが、どこか「ドキュメント2010」との違いがある意味このアルバムでの変化っぷりを象徴している気がします。

ステージ上(スガさん)と観客席(Dさん)の間でのやりとり、「対決」という「設定」(ドキュメント2010)に対し、「設定」関係なく自分の今おかれている音楽業界における状況とどう戦っているか。「対決」というよりも「たたえ合い」のような印象を与えるものになっています。

「音楽業界という社会、時代の中で、俺たちも実はこんなことして何とか頑張ってるんです」って言われてる気がします。

仕事中にこの曲を聴いていて、途中に出てくる、

そりゃ負けたくないって思うよ
でも勝ちたいわけじゃないんだ

という歌詞に思わず目頭が熱くなりました。

そしてそのあとの「スターマイン」と「黄昏ギター」。

誰かの誰にも当てはまりそうな物語を見せられてる気がしてもうおじさん切なくて切なくて。すごいいい曲。

変化は起きても、お得意の、小説を読んでるような歌詞と言葉選びと表現力と、自分が手の届かないココロをかきむしってくれる歌詞…あれ?何この表現!いい歌詞できそう!

あっすいません。とにかく今まであったスガさんの素晴らしさは健在です。

夜が映る黒い水面(スターマイン)

深夜のファミレスで飽きずに話していたことは
僕らが手に入れるはずだった ちっぽけな未来(黄昏ギター)

とかが今の所すごい好きなフレーズですが、フレーズとか関係なく「am 5:00」とか「マッシュポテト&ハッシュポテト」とかも大好きです。
そして「遠い夜明け」もすごくいいんですけどこれ聴くとなんか西野七瀬さんが頭にちらつくんですよね。かわいいわー。いやっ、すごい好きだし、いい曲なんですけど、かわいいわー。かわいい。いやっ、すごいいい曲なん…かわいいわー。

まとめ

後半なんかよくわかんなくなりましたが、しかしその「遠い夜明け」にこうあります。

例えば傷つき 泣いて眠る夜も
君のことを 誰かがみまもってる
ぼくらが強敵に 立ち向かう朝も
君は一人じゃない 誰かが見ていてくれる どっかで

この歌詞がそうであるように、今回のアルバムは側で見守ってくれている印象を受けます。

このアルバム聴いてるとなんか毎日頑張れるんですよね。「労働なんかしないで光合成だけで行きたい」って言ってるのに、ある意味逆説的に、だからこそ頑張れるんです。

なんかすごくいいアルバムなんです。

素晴らしいとか、すごいとか、音楽的に優れてるとか、そんなことじゃなくて、すごくいいアルバム

そして大好きなアルバムです。

なんか節々でよくわからないこと言ってた気がしますが、そんな駄文も読んでいただきありがとうございました。

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